火星の人類学者   (1998年)

著者:オリヴァー・サックス


副題は、「脳神経科胃と人の奇妙な患者」

題名と著者に興味を引かれて読み始めた。
独自の世界に生きる7人の人々、世間ではそれぞれの病気の患者というが・・・

もっとも強い衝撃を受けたのは、盲目だった人が手術によって、目が見える ようになった後の状態だった。見えない世界で生きることが身に付いた人に とって、物が見えるということがどんなことなのか、目で見たものを認識する ということがどんなことなのか・・・。彼にとっては「見える世界こそ異常な世界」だったのだ。
晴眼者が無意識にしている作業、つまり、目から入った情報を使って、頭の中で自分の世界を作り上げるという作業が、どれほど長年の経験によって培われたものであるかということを、初めて考えさせられた。

人の頭の中は誰にも見えないが、一人一人が自分の五感を通してそれぞれの世界を作り上げて生きている。地球上に60億の人間がいるなら、60億の固有の世界があるわけだ。少しずつ違う60億の世界。その違いが少し大きいからといって異常なのか?

健康とは、五体満足とは、正常とはなにか、と考えさせられる。正常とか異常、または病気とか健常とかいう言葉が、何と偏った基準で使われているかということを、目の前につきつけられて、世界観がひっくり返る思いだ。

題名は、いわゆる自閉症の女性助教授の言葉から来ている。彼女は、人間同士の直感的な交流や感情というものが理解できない。自分で作り上げた膨大な経験のデータベースを利用して、人間の行動を予測するという。自分を「火星にいて、人類という異種の生物を研究している学者」のようなものだという。

ちなみに著者は、映画「レナードの朝」の原作者。
ほかに、「妻を帽子とまちがえた男」も翻訳されている。



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