ひねくれ一茶   (1992年)

著者:田辺 聖子 (大阪 1928- )


小林一茶という人を、いままではぜんぜん知らなかったんだ、と、目からうろこの落ちた気がした。

やさしい言葉で、暖かい気持ちのこもった俳句を作る、情けの深い俳人、というぐらいの印象しかなかった。

江戸で成功しようと苦労し、貧しい行脚俳人として放浪する。紆余曲折の末、故郷の柏原に帰り、自然の中で独自の境地を開く。その、いかにも人間らしいこころの移り変わり、感情の起伏に、おもわず人間一茶にひかれてしまう。一茶という人の人間像が、くっきりと浮かび上がる。

一茶の俳句は、苦労人一茶のひねくれと、生来の童心との屈折の中から湧き出ていたのだ。わかりやすく自由で、鋭い切り口を持つ。おもわず込みあげる笑いを抑えられず、一方、今にも通ずる社会批判には共感も感じ、かつシンプルできどらない美しささえある。

一生、田舎もののコンプレックスに悩まされながら、それを句作のばねにしていた一茶。 一生、家族の愛を求めながら、せっかく手に入れた幸せも砂のように手の平からこぼれていく。おもわず哀感をそそる切ない人生に、かれの俳句をしみじみと読みなおしたいくなった。

ひさびさに、読み応えのある本にめぐりあった。勧めてくれた友人に感謝!

ちなみにこの作品で、著者は平成5年、吉川英治文学賞受賞を受賞している。



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