メルヘン(Maerchen)
  • メルヘンとは、ちょっとした空想話、ありそうもない話ぐらいの意味で、最初は民間に伝承されている空想的な民話のことだった。
    が、メルヘンという言葉を正確に定義することはむずかしい。グリム童話の序文にある、メルヘンの本質について述べた言葉には、「小さい木の葉に宿った露のひとしずくが、さわやかな朝日に光っている」、「子供の清らかな汚れのない、青く白く光る目」、「濁らない空想が、メルヘンを守ってきた生け垣だ」などがある。これではあまりに抽象的だが・・・。
    グリム童話の研究家の一人は、「詩的空想によってつづられた物語で、とりわけ魔法の世界から発しており、現実生活の制約に拘束されない不思議な昔話であり、信じられないと思いながら、身分の高い人も低い人も老若男女みんなが喜んで聞くもの」がメルヘンだと説明している。


グリム兄弟
  • 兄ヤーコプ・グリム(Jacob Grimm 1785-1863)と弟ヴィルヘルム・グリム(Wilhelm Grimm 1786-1859) の兄弟。大学で法律の歴史的研究をしていたがドイツ民族の古い文化遺産の発掘に興味を持つ。1806年から民話を集め始め、初版が刊行された時は、兄が27歳、弟が26歳だった。現在、聖書についで広く読まれているといわれるグリム童話が20代の若者による仕事なのである。生前最後に出した第7版まで、二人はほぼ半世紀の間この仕事にたずさわった。
    弟のヴィルヘルムはカッセル市のヴィルト家のドルトヒェンと結婚する。彼女は多くの民話を語り伝えた女性の一人で、結婚したことによって生涯童話のために協力した。兄のヤーコプは生涯独身だった。


グリム童話とは
  • グリム童話集は原題を「グリム兄弟によって収集された、子供と家庭の昔話」という。1806年頃から集め始まられ、ほとんどの話が市井の女性の語り部から収集されたもので、男性によるものはほんのわずかである。
    グリム兄弟はできるだけ素朴な市井やいなかの人々から直接昔話を聞こうと努めた。その意味で家庭の子供たちにお年寄りが語り伝えた昔話の集大成というわけだ。


八つのグリム童話
  • グリム兄弟が童話の編纂に取り掛かってから、約半世紀かかって現在一般に読まれている形の第7版が完成した。ところがグリム童話には、1812年に初版第1巻が発表されてから1857年に第7版ができるまでに全部で8つの形がある。
    現在一般に読まれているのは最後の第7版である。初版から何度も書き換えられたり、装飾を付けられたり、差し替えられたり、追加されたりしている。

    初版
    1812年クリスマスに第1巻(86話)
    1815年 第2巻(70話)
    第2版
    1819年 第1巻(86話)第2巻(75話)
    第3版
    1837年 第1巻(86話)第2巻(82話)
    第4版
    1840年 第1巻(86話)第2巻(91話)
    第5版
    1843年 第1巻(86話)第2巻(108話)
    第6版
    1850年 第1巻(86話)第2巻(114話)
    第7版
    1857年 第1巻(86話)第2巻(114話)
    子供の聖者伝説(10話)

    1810年版またはエーレンベルク稿
    実際には出版されなかったが、初版のもとになった原稿。


エーレンベルク稿とは
  • グリム兄弟が昔話を収集していた同時期に、クレメンス・ブレンターノも民謡を集めていたので、兄弟はこれに協力していた。そのうちブレンターノも民話を集め始めてグリム兄弟と競り合うようになる。ただし、ブレンターノは民話を基にして自由に創作するというやり方だったので、兄弟は自分たちの仕事を続けた。
    1810年、ブレンターノの申し入れに応えて、書き集めた話48編を送る。返送を頼んでいたにもかかわらず原稿は返却されなかった。しかし、兄弟は写しを取っておいたので、それをもとにしてグリム童話の初版を刊行する。(もし写しを取っていなかったら・・・)その後、兄弟は写しを破棄していた。
    1893年エルザスのエーレンベルク修道院で返却されなかった原稿が発見される。それによると、兄ヤーコプが書きとめた話は27編、弟ヴィルヘルムが書き留めた話は14編、その他の人によるものが7編であった。

グリム童話の謎の151番
  • グリム兄弟は最初から200話集めるのを目標にしていたという。最後にはメルヘンが200話と、子供の聖者伝説が10話が集められた。ところが、手違いのためか、番号のふり間違いか、第151番が2つあるので、実際には合計211編のお話が収められている。

    No.151-A
    題名は「Die drei Faulen」
    (三人のものぐさ)

    No.151-B
    題名は「Die zwoelf faulen Knechte」
    (十二人のものぐさ下男)


グリム童話とアンデルセンの童話
  • グリム童話はグリム兄弟が、語り部の女性たちから聞き書きしてまとめた昔話の集大成。アンデルセン童話はアンデルセンの創作童話。日本でいえば、グリム童話は日本の昔話に当たり、アンデルセン童話はさしづめ宮沢賢治の童話に当たるかもしれない。


グリム童話とよく似た話
  • グリム童話の中には、どこかで読んだような聞いたような話が時々出てくる。これは民間伝承の話には場所が異なっても同じような話はたくさんあるからで、世界のあちこちに同じような話を見つける事ができる。例えば、グリム童話の「灰かぶり姫」とペローの童話の「シンデレラ」。


グリム童話の話の種類
  • グリム童話の話は、魔法のメルヒェン、動物童話、妖精童話、妖怪童話、なぞなぞ話、なぜなぜ話、ほらふき話、たとえ話、笑い話など、民話のあらゆる種類を含んでいる。


グリム童話の日本語訳
  • グリム童話は大勢の人々によって、日本語に翻訳されてきた。有名なものだけを抜粋したり、子供向きの話(本当は全部子供のためのものなのだが)だけを集めたり、また訳者か出版社の配慮(!)で翻案されたりしている。
    理想的な形はグリムが書いた通りに伝えられることだが、翻訳した時点で別物になってしまうのは残念なことだ。

    嬉しいことにできるだけ原作に忠実に翻訳された日本語訳を読むことができる。個人によるグリム童話集の最終版「第7版」の全訳はいままで2人が完成している。

    そして、今年(1999年)また新たに全訳本の配本が始まった。


    1.金田 鬼一(1924年)全5巻 岩波書店

    2.高橋 健二(1976年)全3巻 小学館

    3.野村 ひろし(1999年)全7巻 筑摩書房

    それぞれ特徴がある。金田氏の本(文庫版で所有)は1953年に改訳増補されている。第7版の201篇のほかに、グリムが生前に初版本から省いた22篇、遺稿9篇、断篇6篇、類話19篇が収録され、全部で267篇を読むことが出来る。これはグリムの愛好家にとっては本当に嬉しいものだ(貴重な情報を提供して下さった読者W氏に感謝!)。

    高橋氏のものは、子供でも読める優しい言葉で書かれていて、振り仮名つき。全ての話に、グリム童話の挿し絵で有名なオットー・ウッデローデとルードヴィヒ・リヒターによる挿し絵がついている。またオーバーレンダーによる美しいカラーの口絵も収めてある。

    野村氏による最新の本には(10月9日発売、毎月1冊刊行)、グリム童話集の同時代に発行された「ミュンヘン一枚絵」「ドイツ一枚絵」がカラーで掲載されている。きれいな印刷の写真が載せてあり、魅力的な本だ。

メルヘンの読み方−子どもへの影響
  • メルヘンには残酷な話や、残酷な場面が出てくるので、子どもに読ませるべきかということが、よく話題に登る。
    わたしの結論をいうと、だからこそ、小さな子どもに読ませた方がいいと思う。いろんな人がさまざまな意見を述べているが、自分の経験と、いろんな説とが渾然一体となって生まれてきた結論である。
    まだ分別のない子どもに、いろんな話を聞かせて、心理的にいろんな経験をさせることが大事だろう。それを通して、子どもは善悪の判断をするようになったり、残酷な行為を嫌うような気持を身につけていくのではないか。 何世紀にも渡って、子どもに語りつづけられてきた話には、長い時間をかけて子どもの心の中にしみこんでいくように、人間としての知恵が盛りこまれているような気がする。
    最近は、残酷な場面を書きかえてしまったり、結末を変えたりして、元の話とはちがっているメルヘンを見かけるが、これはまちがった配慮だと思う。 メルヘンはできるだけ、原典に忠実なものを読んでこそ、その貴重なメッセージを子どもに伝えていくことができるものだと思う。


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